悠久の風に吹かれて

Blowin' in the Eternal Wind

インド旅行10 ガンガイコンダチョーラプラム

もう一つのブリハディーシュワラ寺院

ガンガイコンダチョーラプラム。日本人には聞きなれない、まるで怪獣みたいな名前ですね。これは「ガンジス川を征服したチョーラ朝の都」という意味で、ラージェンドラ1世がチョーラ朝の新首都としてタンジャヴールとは別個に建設した都市だそうです。父親である先王ラージャラージャ1世がタンジャヴールに建設したブリハディーシュワラ寺院に対抗して、ラージェンドラ1世は同名の寺院をここに造営したそうです。その規模こそタンジャヴールの寺院に及びませんが、素晴らしい完成度の寺院です。

 

ガンガイコンダチョーラプラムはクンバコーナムの北方35kmの位置しており、車で1時間くらいで行くことができます。前日に車を予約したあったので、それに乗って向かいました。車はずっと田舎道を走り続け、窓外には同じような田園風景が流れていきます。そしてクンバコーナムからずっと北に走ってきた一本道の国道を西側に曲がると、もう一つのブリハディーシュワラ寺院に到着です。

 

寺院の平面図(まちごとインド クンバコナムとカーヴェリー・デルタより)

 

当日は日曜日の午前中だったにもかかわらず、寺院内には観光客が少なく、ゆっくり鑑賞することができました。ナンディー堂、マンダバ、ヴィマーナと続く全体の構成もタンジャヴールの寺院とよく似ています。ヴィマーナもピラミッド型で一見同じような形状をしていますが、良く見るとタンジャヴールの寺院は直線的にそそり立っているのに対して、こちらのものはわずかに凹曲線を描いており優美な感じがします。前者が男性的で、後者が女性的とされているそうです。タンジャヴールの寺院に両者をわかりやすく比較したパネルがありました。ナンディー像の手前にある金色の塔は最近設営されたもののようですが、渋い色目の遺跡の中で光輝いているのが印象的でした。

 

金色の塔と2つの寺院の比較

 

こちらの寺院も一部だけに赤や緑の彩色が残っていて、往時の華やかさを偲ばせます。参拝者で賑やかだったタンジャヴールの寺院に比べて、人気が少なく静謐な空気を持つこちらの寺院は内省的な感じがしました。

 

アイラーヴァテーシュワラ寺院

それから今度はダーラースラムに向かいます。ダーラースラムはクンバコーナムの西方およそ2kmくらいの所にあるので、元来た道を戻り1時間くらいで到着しました。アイラーヴァテーシュワラ寺院は今回訪問する大チョーラ朝寺院群の3番目の寺院です。建立時期も12世紀半ばと一番新しいのですが、先の2つの寺院と比べると規模は小さめになっています。

 

寺院のゴープラ

 

寺院の敷地を回廊が囲っており、入り口付近に小さなゴープラ(塔門)があります。靴を脱いでゴープラをくぐると寺院の境内です。寺院の配置は今までの2つの寺院とよく似ているのですが、マンダパ(拝殿)の正面には入口がないことが違っています。マンダパの側面に飛び出た建物があり、そこが寺院の入口になっています。その入口の階段の下には、馬車仕立ての彫刻が施されており、コナーラクのスーリヤ寺院を思い出させます。寺院各部の細やかな神々や動物の彫刻が印象的でした。

 

本殿への入口

 

境内にはあまり観光客もいなかったのですが、地元の学生らしい兄弟が遊びに来ていました。彼らに声をかけられ、日本から来たというと日本のアニメは大好きだと言い、いろいろ話をしました。弟のほうは中でもNARUTOが大好きだといい、その後は、うずまきナルトうちはサスケはたけカカシ春野サクラ、とまるでそれしか語彙がないみたいに延々とNARUTOの登場人物の名前を呼び続けていて可笑しかったです。兄の方からは、いつものようにそのデジカメで写真を撮ってくれと頼まれました。写真を撮影した後、Facebookかインスタで写真を送ってくれと言われたのですが、両方やってないと答えると、「日本人のくせにそんなのもやってないのか?(常識だろ)」とちょっと小ばかにされました。仕方なくメールアドレスを教えてもらいましたが、さすがインド、若者にまでIT化が進んでいるようですね。

 

インド人の兄弟

ティルチラパッリ行きの列車に乗る

昼前にホテルに帰着しました。それからすぐに2時34分の電車に乗るためにクンバコーナム駅に向かいました。クンバコーナム駅は小さな駅で、ホームは1つしかありません。だから前回のように、どのホームで待てばいいか迷うことはありません。しかも今回は鉄道アプリで運行状況をチェックしているので、万全の体制です。しかし、それでもなかなかうまくいかないのがインド流。もちろん電車が時刻通りに来ることはなく、1つのホームに上りと下りの列車が両方入線してきます。さらに列車が駅に近づいてきたところで、なぜか運行状況がモニターできなくなり、30分くらい遅れてきた反対方向行きの列車に危うく乗ってしまうところでした。この列車を逃すとまた1~2時間待たないといけないと思うと、焦ってしまって冷静な判断ができなくなったんですね。

 

クンバコーナムの駅構内

 

さらに15分くらいあとに、目当てのティルチラパッリ行きの列車が到着しました。しかもこの電車は全席GNクラスなので、どの車両にも乗ることができるんです。素晴らしい!車内はそんなに混んでおらず、座ることができました。今回は車内で快適に過ごせそうです。しかし、途中で3-4人の若者たちが乗ってきました。乗った列車には座席の上部に荷物置きが設置されているのですが、彼らはその2階部分に上ってゆき持っていたUSBスピーカーから結構な音量でラップ風のインド音楽を流しはじめました。これにはさすがに下部に座っていたインド人も迷惑そうにしていましたが、注意するまでには至りません。若者たちは2階席?で騒ぐ一方、席が空いているのに車内の出入り口付近の床に陣取って、人が通る邪魔になってようが一切気にせずに死んだように寝ている人もいました。こうして車内では混沌状態が続く中列車は走り続け、1時間ほどで無事ティルチラパッリに到着しました。

 

車内の様子

 

ティルチラパッリ駅を降りたあと、駅前を歩いているとファミレスのようなレストランを見つけたので、昼食をとるためそこに入りました。エアコンもあるようです。インドではエアコンのあるレストランは貴重です。そこでミールスを頼みましたが、シーフードマサラ、マトンマサラ、チキンマサラなどと、品数も多くて充実し、器はバナナの葉を使った本格的なものでした。しかし、辛さも半端なく水を飲みつつ、大量の汗をかきながら食事しました。

 

GRRU MESS レストランの外観

レストランのミールス

 

食事の途中でオーナーの人が話しかけてきて、どこから来た?とかごはんのお替りはいらないか?とか聞かれました。そして私が辛さで汗だくになっているのを見て、食後に甘いデザートを持ってきてくれました。なんて親切な人なんだ!とこの時は感動しましたが、精算時にレシートを見るとしっかり請求されていました。

 

食事のあと、付近をぶらぶら歩いていると、今度はA/Cバーの看板を見つけました。連続でエアコン付の店が見つかるとは珍しい。狭い路地を通って小さなホテルの敷地に入り階段をのぼるとバーに到着しました。バーの店内は薄暗く、カウンターの後ろに原色のネオンみたいな照明が投射されて、そこはかとなく怪しい感じを醸し出していました。ビールを注文すると、頼んでもいないのに豆とか瓜とかチキンラーメンみたいのとか、色々とつまみを持ってきてくれて嬉しかったです。冷房が効いた店内で飲む冷えたビールがまたうまかった。

 

怪しいバーの店内

シュリ―ランガムのランガナータ寺院

この日は晩の便でチェンナイに帰る予定でしたが、まだ時間があったのでシュリ―ランガムを観光することにしました。ティルチラパッリの北側に2つの川に挟まれた、東西30km・南北12kmの中州があります。古来インドでは川の中州は聖なる場所とされており、この中州の中心部が聖地シュリ―ランガムで、2つの大寺院を中心に寺院都市となっています。

 

まちごとインド ティルチラパッリより

 

休憩したあとリキシャを拾いランガナータ寺院に行ってもらいました。この寺院はヴィシュヌ神を祀っており、インド全土に108あるとされるヴィシュヌ派の聖地のひとつで、南インド最大級のヒンドゥー寺院でもあります。寺院は7つの世界を象徴する七重の周壁に囲まれています。第7周壁の南面に位置し高さ75mに達する巨大なゴープラ(塔門)の前でリキシャを降りました。

 

第7周壁のゴープラ

 

ゴープラは周囲を威圧するようにそびえ建っています。それまで見てきた寺院とは違い、奇形的にまで肥大したゴープラは、14の階層があり高さは75mに達しています。赤、青、緑と原色の彩色を施されており、まるで夜に輝くネオンを昼に色彩で再現しようとしているようです。その細部には数々のヒンドゥーの神々の彫刻が配置されて、建物と統一の取れた色で彩色されています。しかしその彫刻の一つ一つは今まで見た中世の寺院ほど格調高くないと感じるのは気のせいでしょうか?

 

このゴープラをくぐって3層の間には民家や数々の商店があって、参拝者でにぎわっています。中央部の第4周壁の内側が実質的な寺院の境内となりますが、非ヒンドゥー教徒は第3周壁の内部には入ることができません。

 

参拝者で賑わう寺院都市

 

3つのゴープラを通り抜け、第4周壁のゴープラの前に来ました。その横手に靴の預かり所があり、そこで靴を脱いで寺院の境内に入りました。境内を進んでいくと、人の好さそうなインド人のおじさんに声をかけられて、「写真を撮るならカメラ代50ルピー払わないといけないよ」と言われました。すぐに払おうとしたのですが、その時ちょうどチケット売り場の係員が不在で「また後で払います」と言い残してその場を離れました。

 

第4周壁のゴープラ

500ルピー持ち逃げ?!

しばらく寺院内を見学してから、カメラ代を払うために先のチケット売り場に戻りました。戻っていた係員の人に代金を払うおうとしたのですが、あいにく少額紙幣の持ち合わせはなく500ルピー札で払おうとしました。しかし係員の人はおつりがないと言います。まあ、インドではよくあることです。ホテルの中でも500ルピー札の支払いを拒否されたことがあります。少額の札は持ってないのかと言われて、私はこれしか持ってないとか揉み合っているうちに、さっき声をかけてきたおじさんがやってきました。状況を説明すると「じゃあ、私が両替してきてあげるよ」と500ルピー札をもって寺院の外へ消えていきました。

 

寺院内の様子

 

そして…その場で5分ほど待ちましたが、おじさんは帰ってきません。寺院の出入り口を見ながらこれはヤラれたな、と思いました。どうやら500ルピー持ち逃げされたようです。インドでは500ルピーは結構大金です。日本円に換算すると¥5,000くらいでしょうか?インド人を信じた私がアホだった、仕方ないなとあきらめかけたその時、おじさんが手にルピーのお札を握りしめて走って帰ってきたのでした。疑ってスマン。

 

林立するゴープラ

金色の建物が本殿

 

無事カメラ代を払うことができたあと、おじさんは「200ルピー払うと屋上の展望台に行くことができるが、どうだ見てみないか?」と提案してきました。最初はあまり気が進まなかったのですが、さっきまで500ルピー失くしたものと思ってたし、おじさんのことも信用できそうだったので、行ってみることにしました。おじさんのあとについていき鍵のかかったゲートを通って階段を上ると建物の屋上に出ることができました。確かに林立するゴープラが一望でき、なかなか壮観でした。ゴープラをバックにしておじさんに写真を撮ってもらい、お礼のチップを渡しました。非教徒は本殿には入れないので、この有料展望台は来て良かったと思いました。

 

屋上の様子

道路を逆走して空港へ

その後、寺院の建物の下の日影で何人ものインド人も休憩したり寝たりしていました。私もその仲間にいれてもらい、暑さを凌ぐため10分ほど休憩しました。そうして元気も回復したところで、最初のゴープラの所に歩いて戻りました。

 

寺院の建物の中

 

Uberでリキシャを手配してティルチラパッリ空港に送ってもらいました。この時の運転手は少しでも早く目的地に着くために裏道のような所を走ってくれるのはいいのですが、なんと気が付くと一方通行の道路を逆走していました。インドは日本と同じ左側通行なのですが、勝手に右側を走っていたので気づいたんです。その道は知る人ぞ知る近道になってるようで、前後に随伴する数台のバイクとともに暴走編隊を組み、堂々と道路を逆走していったのでした。そのあと通常の道路に戻りほっとましたが、インドではこの程度の交通違反では捕まらないのでしょうか?

 

一方通行の側道を逆走する暴走軍団

 

そんなこんなありましたが、なんとか無事ティルチラパッリ空港に到着。インドの空港は通常軍がセキュリティの管理をしていて、空港内に入る時などもいちいちチェックを受けなければいけません。しかしこの時の空港内は通常よりも軍関係者が多くて、中には自動小銃を肩にかけた人もウロウロしていて、何かものものしかったです。

ティルチラパッリ空港内

 

飛行機は定時に離陸して23時頃チェンナイ空港に到着しました。またもや地下鉄の運航時間は過ぎていたので、Uberでタクシーを手配しました。空港の駐車場のインド国旗のところでタクシーに乗車しホテルへ帰着しました。明日はいよいよインド最終日です。