悠久の風に吹かれて

Blowin' in the Eternal Wind

インド旅行9 タンジャーヴール

ブリハディーシュワラ寺院に向かいます

チョーラ朝寺院群

今回の旅行は2020年の夏に計画していたもので、航空券まで予約してあったのですが、ちょっどコロナ騒ぎが始まってしない航空機が飛ばなくなってやむなく中止した経緯があります。その時の旅程は、今回の旅行のマハ―バリプラムまでの部分でした。これから行く予定の、タンジャヴールやクンバコナムなど、いわゆる「大チョーラ朝寺院群」については、今回の旅行を計画した時に新たに追加したものです。2004年に世界遺産に指定された「大チョーラ朝寺院群」は以下の3つの寺院のことです。

  • ブリハディーシュワラ寺院 (タンジャーブール)
  • アイラーヴァテーシュワラ寺院 (ダーラースラム)
  • ブリハディーシュワラ寺院 (ガンガイコンダチョーラプラム)

同じ名前の寺院があり、少しややこしいですが、どの寺院も世界遺産に指定されただけあって素晴らしい建築物です。3つの寺院はチェンナイから少し離れたところにあるのですが、飛行機、鉄道、バスを活用して行ってみることにしました。まず、ティルチラパッリというチェンナイの南300kmほどにある都市に航空機で行き、そこから鉄道を使用してタンジャーヴールへ向かいます。その後クンバコナムという町へ鉄道かバスで行き。そこで宿泊します。ちなみに、これらのどの町の名前も私はそれまで聞いたことがなく、今回の旅行を計画して初めて知ったものばかりです。

ティルチラパッリへ

ティルチラパッリへの航空便は7:05チェンナイ空港発の便だったので、6時前には空港に着いてないといけません。調べてみると地下鉄の運航時間前だったので、タクシーで行こうと思って前日にホテルのロビーで予約しようと思いました。しかしホテルの受付の人の返事は、「前日からタクシーは予約できないので、明日の朝もう一度来てくれ」というつれない返事です。インドでは流しのタクシーがあんまり走ってないことがわかっていたので、少し心配になりました。

しかし、次の日朝5時に起床してUberアプリを起動して、なんとか車をつかまえることができました。650ルピー。あれ、先日乗ったプリペイドタクシー(700ルピー)とあんまり変わらないですね。チェンナイ空港で軽く朝食を済ませました。その後、飛行機は定刻に離陸して8時過ぎにティルチラパッリ空港に到着しました。到着後タクシーでティルチラパッリ・ジャンクション駅に向かいましたが、空港から駅までは結構距離があり400ルピーかかりました。

 

IndiGo でティルチラパッリ到着

インドの電車に乗る

ティルチラパッリ・ジャンクションは結構大きくて、ホームが何本もあるターミナル駅です。まずチケットを買おうと窓口に行きましたが、すべての窓口が閉鎖されています。よくみると改札の脇に自動販売機があり、その横に係員みたいな人がいます。インド人が係員に行先を告げると、その人が機械を操作して発券してくれているようです。私もタンジャブールと行先を言いチケットを発券してもらい、「電車は何番線から出るの?」と聞くと躊躇なく「6番線だよ」と答えました。ろくに確かめもせずその言葉を信じた、私がアホだった。しかし、自分で確かめようとしても駅の電光掲示板は最終目的地しか表示されていないので、電車がどこを経由してどこに行くのかちゃんと把握してないと確かめようがないのですね。

 

ジャンクション駅

 

言われた通り6番線のホームへ行ってみました。しかし、待てど暮らせど列車は来ません。1時間くらい待って、ようやく鈍い私も「これはおかしいぞ?」と思いました。もう一度、待合室のある駅のメインの建物に戻り、ほとんどがヒンディー語で表示されている電光掲示板見てみましたが、やはりよくわかりません。その辺にいるインド人に「タンジャヴール行きは何番線?」と聞いみましたが、1番線と言われたり3番線と言われたりして、聞く人によって違う答えが返ってきます。インド人はわからないことでも適当に答えることが多いので、イマイチ信用できないんです。

 

この駅で一番信頼できる人は誰だ?と考えると、一人思い当たる人が脳裏に浮かびました。それは駅長です。私は構内をうろついて駅長室を探し出し、そこにいた駅長に「タンジャヴール行きは何番線ですか?」ときき「それは3番線から発車するよ」というお墨付きをもらいました。いくらインドでも、駅長なら噓を言うことはないでしょう。ちなみにインドでは偉いひとはきちんとした格好をしているので、すぐにわかります。この駅長も白い制服と帽子がばっちりきまっていました。電光掲示板で3番線の列車を確認すると、30分後くらいに電車がくるようです。ふーっ、なんとかこれで一安心。時刻は既に10時過ぎでした。

ジャンクション駅のホーム

 

しかしこれでもまだ油断できないのがインド流。列車の到着時間が近づいたので3番線のホームに移動して待っていました。しかし、定刻になっても列車は来ず、10分、20分と時間だけが過ぎていきました。日本じゃ定刻に列車が来るのは当たり前ですが、ここはインド、考えてみれば時間通りに列車が来るはずないですよね。ホーム上もインド人でかなり混み合ってきました。列車を待っているインド人を観察すると、スーツケースを持って小綺麗な格好を人たちと、身なりがそうでもない人たちです。おそらく前者は指定席のチケットを持っている人たちで、後者は私と同じように指定席のチケットを持たず自由席に乗る人たちだと思われました。

 

インドの長距離鉄道は1A(エアコン付きの1等寝台)、2A(エアコン付きの2等寝台)、3A(エアコン付きの3等寝台)、SL(エアコンなしの寝台)、EC(エアコン付きの1等車両‥などと細かくクラス分けされていて、通常の旅行者は窓口やネットなどでチケットを予約するようになっています。私も旅行前にネットでチケットを予約しようと思ったのですが日本のクレジットカードが使えず断念しました。駅の窓口で事前にチケットを買うのも、色々とハードルが高そうかつ面倒くさそうなので買いにいきませんでした。なので私が乗ることのできるのは予約なしで乗れる最下層のGNクラス、つまり一般(General)クラスなんです。

 

30分ほど遅れて、ようやく列車がホームに入ってきました。インドの列車はだいたい20両編成くらいでとても長いんです。GNクラスを探してもなかなか見つかりません。すると先ほどGN搭乗らしい人たちが、どんどん列車の後ろの方に移動していきます。私も彼らと一緒に移動していきました。インドの列車は車両間の移動ができないので、確実に自分のクラスの車両に乗らなければなりません。そうこうしているうちに発車のベルが鳴り響きます。周りの人たちは走り出しました。乗り遅れないように私も一緒に走ります。そして車両の後ろから2両目に辿り着き、ようやく列車に乗ることができました。20両の列車の中で自由席はわずか最後尾の2両だけだったんです。

 

GNクラス車内の様子

 

列車に乗れたのはいいのですが、車内は人でいっぱいです。インドの駅は改札などなくて、自由に人が出入りできます。さらに自由席は私の経験した限り検札とかもありませんでした。車内の何人かはただノリしてるんじゃないかな?と思いました。相変わらずスマホはE表示で電波状況はよくありません。車内では降りる駅を乗り過ごさないよう、読み込みに1分ほどかかるGoogle Map と睨めっこしていました。そして1時間あまりで無事タンジャブールの駅に着きました。

ブリハディーシュワラ寺院

タンジャヴールはイギリス植民地時代にはタンジョールと呼ばれていました。ティルチラパッリの東、60kmに位置するしており、カーヴィリ川の河口デルタ地帯にある肥沃な土地です。このため古くからタミルナードゥ州の穀物地帯の中心となっており、9~11世紀にかけてチョーラ朝の首都でした。チョーラ朝の最盛期の1010年にラージャラージャ1世によって建てられたのがブリハディーシュワラ寺院です。

 

寺院の全体図

 

タンジャヴール駅を降りると歩いてブリハディーシュワラ寺院に向かいます。距離はだいたい1Kmくらいです。寺院に近づくと塔門(ゴプラム)が見えてきました。塔門は南インド特有の建築物で、回廊に囲まれた寺院内への出入り口になっています。この後に建てられたヒンドゥー教寺院では原色で彩られた本堂よりも巨大な塔門が林立することになります。この寺院の塔門は2つあり、最初に目にする第1の塔門はより大きく、第2の塔門はそれに比べるとやや小規模ですが、寺院の周囲の回廊に接続しており、この塔門が境内への入口になっています。

 

寺院の入口

第1塔門から本殿を臨む

 

第2の塔門を通りぬけて、寺の境内の中に入ると高さ65mの祠堂が目に飛び込んできます。祠堂の全体形状はピラミッドを縦に引き伸ばした形で、頂部にある花崗岩は80トンの重さがあるそうです。祠堂の各所にヒンドゥー教の神々の像が設置されており、それ以外の部分も細かな彫刻が施されています。ずっと見ているとなんだか頭がクラクラしてきます。

 

ブリハディーシュワラ寺院の本堂

 

彫刻の細部を注意深く観察すると、うっすらと赤や緑の顔料が残っている部分が見て取れます。おそらく創建時には寺院全体が煌びやかな色彩で彩色されていたのでしょう。華やかな創建時の寺院の風景を想像するのも楽しいですが、私は今の色褪せた寺院もなかなか捨てたものではないと思いました。それにしても興味深いのは、このブリハディーシュワラ寺院の建築が、今まで見てきたカジュラホやブバネーシュワルの寺院と全然似ておらず独自の建築様式を打ち立てていることです。そしてマハ―バリプラムの石彫寺院とは共通項が多く、それらが巨大に発展したものに感じられました。

 

ナンディー堂

 

当日は快晴で寺院の境内は観光するインド人であふれかえっていました。ヒンドゥー教の寺院は靴を脱いで裸足で入らないといけないのです。この日は炎天下で地面の石が熱せられて、とても歩けたものではありません。そのために敷地の通路の部分に敷物が敷かれていて、参拝者は基本その上を歩くのですが、構図の良い写真を撮るためはその敷物から石の部分に踏み出さないといけません。しかし石は焼けた鉄板のようになっていて5秒と我慢することができす、その度にアチチチ!となり、踊り跳ねるような変な歩き方で通路に戻りました。それを何度か繰り返しているうちに、参拝する人達に見られて笑われました。しかし何人かのインド人は焼けた石の熱さにも平気な様子で石の上を歩いていましたが、もしかして彼らは足の皮が厚いのでしょうか?

 

回廊の一部は博物館のようになっていて、寺院を解説するパネルが展示されていました。中でもガンガイコンダチョーラプラムの同名の寺院と比較するものや、冠石をどうやって運んだかなど説明パネルは面白かったです。

 

回廊内の展示

 

暑い中写真を撮っていると、華やかないで立ちの若い女性の2人連れに声をかけられ、はにかみながら一緒に写真を撮ってくれと頼まれました。もちろん大歓迎です。私も写真を撮らせてもらいました。いろいろ手間がかかりましたが、この寺院に来てよかったです。この寺院の一角にいるだけで1000年前に造られた豊饒な空間が語りかけてくるような気がして、とても幸福な時間が過ごせました。

 

2人連れの女性

インド人の家族

バスで移動

午前中に列車の移動で散々な目にあったので、クンバコーナムへはバスで移動することにしました。寺院を出て15分ほど歩くと、バスターミナルに着きました。5~6台ほどのバスが停まっていましたが、時刻表とかはなくバスの表示もすべてヒンドゥー語だけで、どのバスに乗ればいいかさっぱりわかりません。付近にいるバスを待っている人たちに「クンバコーナム行きのバスはどれですか?」と聞いて回りましたが、英語がわからないのか無視されたり、笑いながらここだよと明らかな噓を言われたりして、一向に埒が明きません。そうこうしているうちに学生らしい若い女の子が「クンバコーナム行きのバスは反対側よ」と教えてくれました。建物の反対側に回ってみると、そこにもバスが4~5台停まっていました。そこでも再び2~3人の人に聞き込みし、ようやくこのバスがクンバコーナム行きらしいというあたりがつきました。最後にバスの車掌らしき人に「このバスはクンバコーナム行きか?」と最終確認した後、バスに乗り込みました。

 

バスの中はいつものように人でいっぱいで、私が乗った時はもうバスの出入り口付近に立っていたのですが、その後も2~3人の人が乗ってきてラッシュ状態の中、バスが発車しました。まわりのインド人たちと蒸し蒸しした車内で押し合いへし合いしながら、私の生命線はぬるくなったボトルのミネラル水となかなか繋がらないスマホだけです。そう考えるとなんだか心細くなってきました。インドの旅は本当に修行みたいだと改めて思いました。そんな遅いスマホでも現在地を確認できるのは助かりました。バスが停車する度に人はすこしずつ減っていきました。途中で空いた座席に座ることができて、ぬるい水を飲んで一息つきました。バスはカーブの多い田舎道を結構なスピードで走っていきます。

クンバコーナム

そうやってバスは1時間ほど走って、クンバコーナムの町はずれにあるダーラースラムを通過しました。本当はこの日の夕方、ダーラースラムにあるアイラーヴァテーシュワラ寺院を見に行くつもりでしたが、朝から色々なことがあり疲れ果てていたので明日の予定にまわすことにしました。そうしていよいよクンバコーナムに到着です。

 

クンバコーナムの街並み

 

クンバコーナムはチョーラ朝のころから栄えている寺院都市だそうで、現役のヒンドゥー教寺院が15ほどあるそうですが、時間の関係もありすべてスルーしました。ちょっともったいなかったかな?なんせ体が疲労していたので、クンバコーナムのバスターミナルに着くと、すぐにホテルに歩いて行きました。ホテルにチェックインしてベッドに倒れこみ、1時間ほど休憩しました。

 

ホテルの部屋

ホテルの窓からの風景

 

その後、次の日の列車をチェックするために、ホテルの近所にあるクンバコーナムの鉄道駅に行きました。駅の窓口で聞こうと思ったのですが、人が10人くらい並んでいて、全然列が進みません。インドあるあるです。それで駅構内にある看板みたいな時刻表をチェックしてみました。12時34分にティルチラパッリ行きの列車があるようなので、午前中は車で観光したあと、その列車に乗って帰ることにしました。それから駅の周辺を少しウロウロしてみましたが、あまり良さそうなレストランはありません。小汚いカフェ?みたいなところでインド人が飲んでいるシェイクみたいなドリンクが美味しそうに飲んでいました。私も買って飲んでみましたが、なんか合成甘味料が入っているような甘ったるい味で、ちょっとがっかりしました。

 

駅の時刻表とシェイクカフェ

 

そのあとホテルに帰り、ロビーで次の日の車を予約しておきました。半日チャーターで2000ルピーです。ホテルのレストランで夕食を食べて、部屋に戻りました。明日に備えてインドの鉄道のことを色々調べ、Indian Railway という鉄道のアプリをスマホに入れました。これで鉄道の運行状況をリアルタイムで確認できます。もっと早く入れておくんだった!そうこうしているうちに就寝。

 

夕食のベジ料理