悠久の風に吹かれて

Blowin' in the Eternal Wind

カンダーリア・マハーデーヴァ寺院

Kandariya Mahadeva Temple

 

カンダーリア・マハーデーヴァ寺院はカジュラホの寺院の中でも最大規模と最高の美しさを誇る寺院です。11世紀に建立されて、祠堂にはリンガが祀られているシヴァ寺院です。リンガとはサンスクリット語で男性器にことを意味しており、シヴァ神の象徴とされます。ヒンドゥー教の寺院では寺院内部だけでなく、外部でもリンガを見かけることがあります。

 

 

寺院は高さ5mほどの基壇の上に建っていて、高さは基壇上から30.5m、幅20mとなっています。建物全体の構成は、エントランスポーチ、拝堂(マンダバ)、大拝堂(マハーマンダバ)、本堂となっており、各部にバルコニーが設けられています。寺院全体を眺めると、ポーチから奥に向かうにつれてリズミカルに駆け上がってゆき、最後にシカラ(祠堂の上部)の最上部に到達します。この寺院の構造は、側面から見るとよくわかると思います。

 

 

私がこの寺院で最も素晴らしいと思うのはシカラ(本堂上部の塔部分)の構造です。大きな全体のシカラの中に、小さな84個のシカラがあるそうです。この寺院の写真を始めて見たとき、これはフラクタルな構造なのでは?と思いました。フラクタルとは、一部が全体と自己相似な構造を持っている図形のことで、マンデルブロ集合とかコッホの雪片曲線とかが有名です。しかし、フラクタルという概念自体が20世紀に発見されたもので、1000年前のインドの人達が知っていたとは思えません。植物もまた広義のフラクタル構造をしているので、昔の人たちは自然を注意深く観察してその構造を建築の設計に取り入れたのだと推測します。そういえばガウディも自然をから学んだ構造を、積極的に建築の設計に取り入れてましたよね。

 

 

シカラ部分だけではなく、マンダバやマハ―マンダバの屋根も中心の一番高い部分を囲むように多数の小塔が配置されて、これらもまたフラクタル的な要素を持っています。この寺院の外見は、リズミカルな全体のボリュームにフラクタル的な小シカラの小塔が林立する様子が合わさり、さらに外壁は無数の彫像で埋め尽くされて、ずっとみていると頭がくらくらしてきます。まさに自然界と人間界を象徴している、小宇宙のような寺院だと思いました。

 

 

寺院の各所に施された彫像はバリエーション豊かですが、日本の仏像のように厳粛なものではなく、全体的にユーモラスな雰囲気が強いです。人物像は6頭身くらいとなっていて、そのせいもあってコミカルな表現が目立つように思います。有名なミトゥナ像(一対の男女像)などエロチックな彫像もあちこちに見うけられますが、それは一部だけで、ほとんどが単身の彫像です。

 

特に本堂と大拝堂の間の部分は、2本の柱に囲まれたゲートのようになっていて、高さ3段にわたる彫像群が目の前に混然一体となって迫り、眼前を埋め尽くします。

 

 

階段を上がって内部に入ると、拝堂、大拝堂を通った奥に、小さな聖室があり、直径1mほどのリンガが祀られています。聖室は建物の外観から想像するよりもすっと小さなもので、建築の外観を最優先するヒンドゥー建築特有のものなのでしょうか?この頃のインドにはアーチを作る技術も伝わっていなかったのも、内部空間の貧弱さの一因のようです。

 

 

聖室のまわりを1周するように繞道(にょうどう)があり、その聖室の側に外観と同じように彫像が配置されています。繞道の3方にはバルコニーがあるのですが、そこから差し込んでくる光が薄暗い繞道の中に差し込んできて、彫像を立体的に浮かび上がらせます。この光と影の効果は、寺院外観のバロック的な装飾過剰な表現に対比される、もうひとつの静謐で美しい空間表現だと思いました。

 

 

インドにはたくさんの素晴らしい寺院がありますが、中でもカンダーリア・マハーデーヴァ寺院はインドでも有数の完成度を誇っている寺院だと思います。